【セミナーレポート】2023年、消費財業界の顧客コミュニケーションはこう変わる!

【セミナーレポート】2023年、消費財業界の顧客コミュニケーションはこう変わる!

工藤裕貴

2023.02.26

情報過多の時代において、競合の台頭、顧客とのコミュニケーション手段の増加により、マーケティングの難易度も上がっています。一方で顧客に支持され続けるブランドも存在します。

本コラムでは、元P&Gブランドマネージャー石井賢介氏を招き、最終的に購買に寄与する顧客コミュニケーションやブランドの在り方を考察、解説したセミナーのレポートをお届けします。

過去と今とで変わった消費財業界のマーケティングの手法はあるか

まずは昨今の消費財業界のマーケティングに関して5つのテーマのセッションが行われた。

①新しいカテゴリは作られるか?
ヘアパック、瞬間洗濯といった言葉を聞けば、そのジャンルが用意に想像できるようないわゆるカテゴリ、ジャンルといったものは、今後も新しく作られていくのか?

結論、「洗い落とさないヘアパック」など、商品のユニークさを設けた商品郡などは作られるという話だったが、顧客課題におけるカテゴリはにおいては、ほぼ出尽くした(=WHATは変わらない)。しかし、ニーズの解決の手法(=HOW)は変わっていくためそれに準ずる商品カテゴリは作られるであろうとの予測。なお「瞬間洗濯」などはキーコピーに近く、これもまた商品群によっては作られていく可能性があるとの見解だった。

②競合をどこまで参考にするべきか?
参考にはしても良いが、真似をしても意味がない、事業フェーズも、コンセプトも異なる。真似をしても、決して大きな投資かつ全ての面で先行者を上回らなければ、勝てないという高橋の問いに対して、石井氏も大いに参考にすべきとの意見。

例えばシャンプーでいうと、どのポジションを狙っていくのか(上品・シンプル・無添加など)においては参考にすべき、ただ、別の角度から見ると別の業界、商品、サービスが競合になることがあり得る。

例えば、ハーゲンダッツの競合は他社のアイスクリームだとして「美味しい訴求」ではここまで売れてなかったという。ハーゲンダッツの競合はプレミアムモレツ、なぜならば、仕事終わりのビジネスウーマンが夜の贅沢な時間を過ごすための手段が競合だからだ。

コミュニケーションターゲット(財布、お金、時間、胃袋)のリプレイス先をどう考えるか。
石井氏いわく、当時、ケータイ普及によりカラオケ屋に行かなくなった。高橋氏いわく、スマホゲームの競合は、他社のゲームではなく、漫画、アニメなどエンタメ全般とのこと、そもそも何を競合とするかの視点が重要だと感じた。

③戦略ありきで良いのか?
マーケティングは戦略ありきで良いのか?
高橋氏いわく戦略ありきで、戦術〜実行までの質をいかに高められるかがポイントとのこと(=エグゼキューションのクオリティでレバレッジを効かせる)

石井氏はキービジネスドライバーである(Who・What・How)において、戦略が語られていないのに戦術の話をすると気持ち悪いという、ただ昨今ウォーターフォール型のマーケティングが主流になりすぎて同じような戦略が多く存在し、勝ちにくいという。

アメリカ合衆国のマーケティング戦略家ジャック・トラウトの「顧客視点であるというブランド戦略は競争上の優位性を持たさせない」という意見に非常に共感するとのこと。

昨今はカテゴリでエクストリームな戦術を取れる人が勝てるようになってきている。
ものの例えとして、必ず田中みな実さんに取り上げられる化粧品を出せる戦術があれば勝てるし、サッカーで言うのであれば「メッシ」という特定の戦術が戦略になり得るとのこと。

シェアラブルな現代において、戦術が媒体を通じて消費者に届く時代に、戦術スタートで戦略を当てはめるフローであっても成立する、戦略が型落ちしている場合、戦術のディスカッションをしても意味がなくなってきている、ということでしょうか。

これはある意味P&G出身者っぽくないと思いきや、説得力のある考えである、と頷くリスナーも多かった。実行不可能な戦略はクライアントには提案すべきではないとMD社のスタンスもここから来ているのであろう。

④マーケティングもアジャイル思考が必要か?
特定の領域の開発では当たり前になってきているアジャイル思考。
これはマーケティングにも当てはまるのか?
点の開発のみで、顧客起点のコンセプトが無いと、単なる徒手空拳になってしまうため、成功の確率は低くなるものの、ある程度ユーザーの反応も見ながら打ち手を変えていく必要があると考える高橋氏。

ウォーターフォール型の手段に対して、消費者の価値観が凄い速度で変わっている、手法の柔軟性がなかった時代は良いが、今はアジャイル思考が必須という石井氏。

こと小売に対しては、TVか新聞か、しっかり調査して重厚な仮説を立てて在庫を用意していた時代は終わり、在庫なしでもコンセプトを100個作り、消費者のリアクションを見てプロダクト開発をする方が勝てる可能性が高くなるのこと。

2023年はアジャイル元年になるのでは!?という話も挙がった。
この数年で、I-ne社が、分かりやすくそれを実行している。

そういった意味でも、店頭における販促物も、紙に印刷し、郵送して、運んでという手段よりデジタルサイネージなど、店頭のエグゼキューションもスイッチャブルになってきているため、そういったものを活用することで、成功確率を高められる可能性もある、とのことだ。

⑤マス思考は✕、マス媒体は◯
マス媒体は必要だが、既にデモグラのセグメントが崩壊している(ターゲットが30代女性と言っても、千差万別で傾向は一概に言えない)以上、マス思考過ぎるのは危険なのではという高橋氏の発言。

石井氏いわく、1億人にメッセージが出し分けることが出来るのであれば、理想だがそれは不可能。よって一番売れるであろう商品を最大公約数的なプロモーションがマス思考であり、マス媒体の活用。また、顕在化していないニーズ(検索されていない領域)を発掘するためにも、一定のマス活用は必要とのこと。

この最大公約数の発想には高橋氏も大いに共感。

また、セッション内であがった「燃焼系アミノ式」「文明堂 カステラ 文明堂豆劇場」などのように、消費者が新鮮なビジュアルや音、アクションを覚えさせられて無条件で商品を買うという発明は、もはや起こりにくい時代であるという二人。

2023年消費財業界のマーケティングはどういった視点を持つべきか?

次に広告の在り方に対して、高橋氏より提言。
あふれる情報、広告において、2010年以降「広告」が意味することが変わってきている。

一方的な広告は効きにくい。フリークエンシー、持て余し時間への接触、しいては、コンテンツやPR文脈が大事だという。

石井氏は自分ごととして集中力は減少してきている、続けて「商品の良いところだけを伝える広告は死んだ、つまらないメッセージを受け取っている暇はない」と断言。

「便益を伝えて面白い」の順番では面白くないと見てくれない。今は「面白い、その後結果として便益が伝わる」の順番になってきているとのこと。

全ての広告はコンテンツになってきている。プランナーは、広告プランナーではなくコンテンツプランナーになっていかなければならない、とのこと。

トラディッショナルなマーケティングをやっている人は否定するかもしれないが、便益だけ伝える広告は厳しいとの両名の見解。面白いコンテンツは二次流通しやすい、そのため結果としてリーチもエンゲージメントも得られるというメリットもある。

受験生がいる家庭をターゲットとした、明治プロビオヨーグルトR-1、大塚製薬カロリーメイトなどのCMは共感も得られやすいコンテンツ型の広告の例であろう。面白さ、ストーリーという意味だと、Snow Peak、レッドブルも分かりやすい。ただストーリーのみだけでも買われ続けないというジレンマもあり、常に形を変えたコンテンツやメッセージは必要になってきそうだ。

勝っているブランドに共通する傾向とは

勝っている商品やサービスや商品を紐解くため、バリュープロポジションの例を高橋氏が取り出した。

当時、バリュープロポジションの設計難易度が高く、その基本的なことをやれば売れていた時期もあったが、それが当たり前になりすぎていると石井氏。各社がPoD(Point of Difference ※1)に集中しすぎて、PoP(Point of Parity ※2)になってしまっているということ。

※1.Point of Difference:その商品やサービスの独自の強みで、顧客が求める価値
※2.Point of Parity:その商品やサービスのオリジナリティではなく、他社と類似、同質している部分で共通して顧客が求める

最低限PoPがPoD以上に重要、そして顧客起点、独自性の開発が未だに出来ていない企業がまだいるんですよね、と高橋氏。PoP、PoDに加えて、そこにもうワンスパイスが必要となりそうである。

続いて、コミュニケーションとプロダクトの関係を考察。

高橋氏:どこが多いか?
石井氏:殆どが左下である

Cのゾーンは情報商材、絶対毛が生えるなどコンプレックス商材の広告に多い。高単価で初回顧客を獲得することを想定しているので、それで良い。ZOZOスーツも話題にはなったが、結果継続利用はされなかった。

加えて真面目な商品は右下が多い。いずれにしろ、コミュニケーションが上手くなく、勿体ない商品が多いためマーケティングが再度見直されてきている、という両名であった。

非計画購買(パルス型消費)をどう考えるか?

ジャーニー型(ファネル型)消費行動のフレームは主流ではあるが、実際に消費者のパーセプションを表している行動においてはパルス型が実際多いであろうとのこと。

例えば、ランチに行くお店において、認知している店が6つで、うち検討が3つでと厳密に行動は分かれていない、管理者が管理しやすいための主流のフレームである。

カテゴリエンゲージメントが強いもの(シャンプー)は、クリティカルに選択しない、ただ家の購入は調べる、自動車も調べる、価格帯が高く、その選択が自分にとって大きな意味を持つものは、ジャーニー型の傾向にはあるという意見が出た。

そしてパルス型消費が起きている(起きやすい)のは、店頭であることが多い。

高橋氏は、ジャーニー型の行動は最大公約数としては間違っていないが、常に消費者倫理は行き来きして、検討までいったが、忘れて、再認知という形でトップファネルに戻ることもあるという。

石井氏は、認知のための施策で◯◯をする、興味のための施策で◯◯をするというのはやめた方が良いという。消費者のモーメントを大事にする、モーメントモチベーションをいかに作るか、どの瞬間で認知して興味が湧くか、そのモーメントを作ることに集中すると良いと解説をした。

オンラインとオフラインに関しての棲み分けはどう考えるか?

オンラインとオフラインはもはやデバイスや接触方法の仕方の違いでしか無く、オンライン・オフラインの棲み分け自体不毛だという高橋氏。

石井氏は、売り場はOMOの考え方、シームレスにしてあげるのは便利で良い、広告媒体としてのオフライン・オンラインはどこで見るかの違いのみなので、同じく分けて考えるのは無意味であることに加えて、オフラインで出したものはオンラインでシェアできるものである方が良い(どこで出した方が面白いかはある)とのこと。

一時期、高橋氏がPRで携わっていた時の仕込みとして、SNSで着火したものがTVで取り上げられ、それがまたSNSで戻ってくるという設計を意識したというところにも近しい考えでもあった。

最近注目の広告事例は?

最近注目の広告事例に対して「前提、広告は打ち続けることができない(お金があれば可能)それより前にネーミングが大事、熱さまシート、ブレスケア、チキンタルタ、蚊取り線香など、あると良いな、話題化の視点、使うイメージを想像できる顧客に関係がありそうなネーミングは目が行くと高橋氏。

例としては、TikTokを使ったドラマの鈴木愛理さんの仕事終わりに飲むハイボール「しごおわハイ」限界ちゃんのていねいな暮らしが面白いとのこと。
(1億人に1億人毎のコミュニケーションが広告もコンテンツも出せるショート動画を中心としたTikTok事例が注目されることが2020年以降多い)

古くは2011年のAKB48“江口愛実企画

アイスの実のキャンペーンとして、メインキャラクターとして出演している謎のメンバー「江口愛実」の正体が話題を呼んでいたが、その正体はメンバーの顔のパーツを組み合わせた架空の存在だった――というものだ。
消費者を騙すのではなく、彼女の存在を遊びとして楽しんでいただくのが狙いで、一部ファンにおいては気づく人もいて、非常に当時秀逸だった。さらにはAKB48全メンバーの顔のパーツを組み合わせて「自分だけの究極のAKB48」を創り出せるWebコンテンツ「推し面メーカー」も話題になった。

石井氏からは具体的な分かりやすい例として上げられたのが、洗濯洗剤 ジェルボールの「BOLD」である(古巣のP&G社商品)

菊池風磨(Sexy Zone)さんが、洗濯大名になり、進化を伝えるCMシリーズがある。
ただ、そのCMが云々というより(CMも良いのだが)TBSモニタリングにおいて「本物のCM撮影中にドッキリを仕掛けたら、さすがの風磨も気づかないはず」というテーマで、もしもあり得ないCMの依頼が来たらどうするかドッキリを決行された例を上げた。何が良いかというと、1時間弱の番組で人気ジャニーズの菊池風磨さんのドッキリの番組にも関わらず、BOLDの便益がしっかり伝わっており、結果、売上に大きな貢献をしたということだ。

やり尽くされているメッセージで100万GPRより、究極的な面白い1GRPコンテンツの発想が重要だという二人であった。

デジタルOOHはどのように広告主に受け入れられていくか?

最後に高橋氏よりデジタルOOHはどう受け入れられているかのテーマのセッション。
元P&Gブランドマネージャーの観点ではどうであろう。

石井氏いわく、紙で出来ることがデジタル化していくのは自然流れ。さらに二地点で連携できる、天候に連動する仕組み、時間毎(昼と夜など)でコミュニケーションは変える、時間限定で出せるということで、益々広告主への価値はあるであろうという。

旧OOHだと、1ヶ月でいくらといった期間単位の出稿条件となるが、それを時間やエリアのセグメントで少額から出稿できるのは嬉しいとのこと。

サステナビリティの観点からも、紙はデジタル化されていくと語った。

誰が、担当すべきかという問いに関しては、販促ツールのスイッチという意味では販促予算を持つ営業部門だし、認知媒体である、コンテンツを作り新規顧客を得ていく場所という認識だとマーケティン部門になる。

いずれにせよ、AmazonAdsの取り扱いと同じで広告出稿に該当する部門が持つが、そこは営業にも情報共有はして、セールス強化をするといったように、企業の組織体制はあるものの、マーケティング部門と営業は連携しないといけないという話であった。

最後に「店頭で面白いコンテンツを作るプレーヤーはまだいない、それが出来ると大きく店頭のマーケティングも変わってくるであろう」という石井氏からの言葉が印象に残った。

以上、ウェビナー「2023年、消費財業界の顧客コミュニケーションはこう変わる!」のレポートとなります。

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工藤裕貴

工藤裕貴

2011年に株式会社マイクロアド入社。自社のアドネットワーク商品 のセールス・コンサルとして従事した後に、2013年 MADSの立上げに参画。 営業や広告のマネタイズ部門の責任者を経て、現在は、顧客へのサービス提供価値の向上を目的とし、新規広告主向け企画コンテンツの開発や顧客のフォローアップに従事する。

2011年に株式会社マイクロアド入社。自社のアドネットワーク商品 のセールス・コンサルとして従事した後に、2013年 MADSの立上げに参画。 営業や広告のマネタイズ部門の責任者を経て、現在は、顧客へのサービス提供価値の向上を目的とし、新規広告主向け企画コンテンツの開発や顧客のフォローアップに従事する。

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